2019年9月8日(日)「荒野の誓い」

HOSTILES・2017・米・2時間15分(IMDbでは134分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、李 静華/シネスコ・サイズ(2.35、デジタル、Panavision、IMDbではArriflex)/ドルビーATMOS(IMDbではドルビー・デジタル、ドルビー・サラウンド7.1も)

(米R指定)

監督・脚本・製作:スコット・クーパー
撮影:高柳雅暢
出演:クリスチャン・ベイル、
   ロザムンド・パイク、
   ウェス・ステューディ、
   ベン・フォスターほか

公式サイト
http://kouyanochikai.com
(全国の劇場リストもあり)

1892年、アメリカ、ニュー・メキシコ。騎兵隊のジョー・ブロッカー大尉(クリスチャン・ベイル)は、任務でインディアンを数多く殺してきた。退役間近となった彼は、上官から、大統領命令により殺人の罪で収監されているシャイアン族の酋長、イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)とその家族を、生まれ故郷モンタナの熊の渓谷に帰すことになったので、護送するよう命じられる。チーフは癌で先が長くないという。ブロッカー大尉はインディアンの言葉が話せて、モンタナまでの道にも詳しいというのが理由だったが、大統領は差別していないことをアピールするために利用しようとしていたのだ。上官からは、退役後の年金か、軍法会議かと迫られ、受けるしかなかった。4人の部下と共に出発すると間もなく、コマンチ族に襲撃され、夫と3人の子供と家をも失った女性ロザリー・クウェイド(ロザムンド・パイク)を発見し、保護することになる。


76点

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 うーむ、実にシリアスで重いテーマ。深い。そして悲しい。決して楽しい映画ではないが、感動した。殺し合いが当たり前だったような時代の物語。もはやウェスタン=西部劇はエンターテインメントというより、ちょっとリアルさを取り入れようとすれば、それは史劇のようになるということなのだろう。だから重厚になる。そしてたくさんの血が流され、たくさんの人が死に、たくさんの墓ができる。こうして今の世界、我々があると。それを思い知らせてくれる。アメリカ政府による「フロンティア消滅」(インディアン掃討完了という意味らしい)宣言は1890年だ。舞台もインディアン戦争で大虐殺があり、和平会談も開かれたコロラドだったりする。

 しかし、よく出来たロード・ムービーで、人との出会いがあって、変化や成長があって、事件があって、美しい大自然があって、前向きな未来がある。これは、西部劇好きとか映画好きとかそういう事ではなくて、多くの人にとって見ておくべき映画ではないだろうか。もちろん西部劇好きと映画好きは見るべきだが。

 とにかく銃声が破裂音的で、大きく、恐ろしい。いかにも弾が飛んでいそう。痛そうだし、血糊も霧のようにではなく、ドビュッと粘っこい感じで飛ぶ。そして時間が経つと赤黒くなっていく。それがまたリアルで怖い。

 この映画を見て、アメリカ海軍のアーレイ・バーク大将の話を思い出した。ウィキペディアによれば「アメリカ海軍史上でただ1人、海軍作戦部長を6年の長きにわたって務めた」人物だそうで、第二次世界大戦時、駆逐艦乗りとして日本軍と戦い日本人を憎んでいたため、ジャップとかイエロー・モンキーと公言してはばからなかったという。ところが朝鮮戦争で日本に赴任すると、日本人を知ることになり、嫌日家から親日家になった。そして海上自衛隊の設立に尽力し、日本から勲章まで授与されたんだとか。1996年に亡くなった時、遺言により日本の勲章だけを付けて埋葬されたと。

 お互いたくさん敵を殺した。何も感じなくなり、時にはそれを楽しんだ。しかしそれは仕事で、やるべきことだった。やらなければやられる。ところが状況が変わって共通の敵が現れれば、手を取って協力することも出来る。ラスト、ブロッカー大尉が死を前にした酋長のイエロー・ホークに言う「過去を振り返るのは止めよう。前に進もう」と。

 銃は、騎兵隊は制式装備品のSAAの7.5インチ、いわゆるキャバルリーを使う。右にグリップを前にして吊り、ナイフは左に。ちゃんと細かくハンマーをコックしていた。ライフルは、冒頭の牧場襲撃シーンで、牧場主がM66イエローボーイらしいライフルを使う。ブロッカー大尉はM73を背負っていたが、シャープス・カービンを持っている者もいた。スプリングフィールドのM1873トラップドアは無しか。1892年の話だとすると、軍の制式装備としてはM1892のクラグ・ヨルゲンセン・ライフルの時代か。いずれにしても出てこないが。毛皮ハンターのライフルはわからなかったが、やっぱりシャープスか。

 原題のHOSTILESは敵意を持った人たち、敵という意味らしい。エンド・クレジットで流れた曲は、まるでレクイエムのようだった。

 公開3日目の初回、品川の劇場は全席指定で、2日前にネットで確保。当日は10分前くらいに開場。ファミリー層が多い劇場のせいか、この手の作品は観客数が少ない。ゆっくり見ることができるのでむしろ大歓迎だ。ほぼ中高年で、女性は、最初12人いた中でわずかに2人。最終的には122席に21人ほど。うむむ、悪くない映画なのに、西部劇って人気がないのか……。

 冒頭に、ドルビー・デジタル7.1のデモあり。


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