2021年3月28日(日)「騙し絵の牙」

2021・「騙し絵の牙」製作委員会・製作幹事:松竹、KADOKAWA・1時間53分

シネスコ・サイズ(表記なし、Arri?)/音響表記なし(ドルビー・デジタル?)
(『HELLO! MOVIE』方式に対応した視覚障害者用音声ガイド・聴覚障害者用日本語字幕付き)

監督:吉田大八
原作:塩田武士『騙し絵の牙』
   (角川文庫/KADOKAWA刊)
脚本:楠野一郎、吉田大八
撮影:町田 博
出演:大泉 洋、松岡茉優、
   木村佳乃、池田エライザ、
   佐藤浩市、國村 隼、ほか

公式サイト
https://movies.shochiku.co.jp/damashienokiba/
(全国の劇場リストもあり)

出版不況の中、大手出版社の「薫風社」の社長が急逝する。すると次期社長を巡る内紛により社長となった専務の東松龍司(とうまつりゅうじ、佐藤浩市)は、不採算雑誌の文芸月刊誌「小説薫風」を季刊にすることを決定。新人編集者の高野 恵(たかのめぐみ、松岡茉優)は総務部預けとなってしまう。そんな時、高野はトレンド月刊誌「トリニティ」の新しい編集長、速水 輝(はやみあきら、大泉 洋)に声をかけられ、「トリニティ」編集部へ行くことに。そして「トリニティ」で小説を連載するため、まず大御所作家、二階堂大作(にかいどうだいさく、國村 隼)の連載を取るよう命じられる。

72点

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 予告に騙された。登場人物全員が嘘つきで、最初から嘘をついていて、騙し合い合戦みたいな予告だったが、まったく違った。出版社の現状と内紛を描いた普通のドラマだった。ミステリー的な部分はあるにはあるが、あまり重要ではない。本が売れなくなって、どうやってやっていくか、月刊から季刊になったり、社員を減らしたり、土地を有効利用しようとファンドと組んだり、ネットに進出しようとしたり…… コメディ要素も多いものの、やはりとてもリアルな問題で、ボクは端っこに関わっている身として、笑えなかった。そしてかなり落ち込んだ。出版不況。

 町の本屋さんがどんどん無くなり、本もなくなっていく。ギャラのカットや編集部の解体。そして休刊(廃刊)、社員もライターも職を失う。それを避けるためには何でもやるか。一方デジタル書籍には望みがある。どう付き合っていくか。この映画の結末のようなことになるだろうか。木村佳乃演じる女性編集長のラストもなあ。ここはやはりファンタジーだろうなと。そして速水が屋上でコーヒーを投げつけるのは、キャラクター的に違うかなと。ここは「えんぴつを入れたい」ところ。

 脚本はうまく、TV的な話をなかなか見せる。良かったのは、町の本屋のお父さん店長が、売り切れの本を客に「明日には入ります」と行って、大手の紀伊國屋へ買いに行くというエピソード。割引で買った図書券があるからと、電車賃をかけて買いに行くから結局赤字になる。たしかに、町の本屋さんは入荷部数が少ないから、すぐに売り切れる。だから最初から大手へ行くか、ネットで買うことになる。うむむ。そして特に良かったのは、セリフ。セリフ回しがリアルで、しゃべった人は存在感が出て、いかにもいそうな感じになる。本当の話っぽくなる。

 まあ、とにかく女優がいい。特に主役の新人編集者を演じた松岡茉優がいい。気張った感じはなく、自然体で、等身大の感じで時にコミカルにさわやかに演じている。この人のキャラの雰囲気でドロドロした感じが薄められている。そして上司となる「小説薫風」の編集長を演じた木村佳乃がいい。また文芸評論家、久谷を演じた小林聡美がいい。さらに「トリニティ」編集部の1人を演じた石橋けいがいい。とどめに人気モデル城島 咲を演じた池田エライザがいい。

 男優では専務を演じた佐藤浩市と、大物小説家の二階堂大作を演じた國村 隼が良かった。

 銃はなしかと思ったら、意外なことに登場した。モデルの城島 咲が銃好きの設定で、グロックについて「トリニティ」編集長の速水と銃談義を交わす。そして事件で使われるのがグロックの3Dプリンター・バージョン。ただ、1つ疑問なのは、銃は3Dプリンターで出力したとしても、どうやって実弾を手に入れたんだ? こればかりは簡単に作ることができない。しかも散弾ならまだしも、拳銃弾は簡単には手に入らない。警察か自衛隊にしかない。厳しく管理されていて、撃ち空でさえ手に入れるのは困難なのだ。銃器特殊効果はビッグショットの納富貴久男。

 公開3日目の2回目、新宿の劇場は全席指定で、2日前にネットで確保。当日は15分前くらいに開場。観客層は若い人から中高年まで幅広く、男女比はほとんど半々くらい。下は母に連れられた小学生くらいの女の子。はたして出版界のいざこざがわかったのだろうか。笑いも少なかったし。最終的には287席に7〜7.5割くらいの入り。なかなか人気のようだ。

 スクリーンはシネスコ・サイズで開いており、CM・予告の途中で半暗になり、枠付きの映画泥棒、映倫が入って、最期は暗くなってマナーの後、フルサイズで本編へ。

 オープニングとエンディングのワープロ風の文字の出し方は、縦書きもあってなかなか凝っている。そして最後の最後に「終」の文字。最近は少ない終わり方。

 それにしても、最近になってようやくQPのCMがシズル感のある色のいいものになった。これまではCMの中で色は大切とか言いながら、色が良くなかった。意図的に落としていた気も。何やってんだろと。


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