2021年10月30日(土)「モーリタニアン 黒塗りの記録」

THE MAURITANIAN・2021・英/米・2時間09分

日本語字幕:丸ゴシック体下、櫻田美樹/シネスコ&スタンダード・サイズ(表記無し。IMDbでは2.39と1.33,1.78、Sony CineAlta)/音響表記無し(IMDbではドルビー・デジタル、ドルビー・サラウンド7.1)
(英15指定、米R指定)

監督:ケヴィン・マクドナルド
製作:ベネディク・カンバーバッチ、
   マイケル・ブロナー、ほか
原作・モデル:モハメドゥ・ウルド・スラヒ
   『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』/
   『モーリタニアン 黒塗りの記録』(河出書房新社)
脚本:マイケル・ブロナー、
   ローリー・ヘインズ、
   ソフラブ・ノシルヴァン
撮影:アルウィン・H・カックラー
出演:ジョディ・フォスター、
   タハーム・ラヒム、
   ベネディクト・カンバーバッチ、
   シャイリーン・ウッドリー、
   ザッカリー・リーヴァイ、ほか

公式サイト
https://kuronuri-movie.com
(全国の劇場リストもあり)

2005年、アメリカの弁護士ナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)は、キューバにあるアメリカ軍の施設「グアンタナモ収容所」に収容されたモーリタニア人、モハメドゥ・スラヒ(タハーム・ラヒム)の弁護を引き受ける。モハメドゥは9.11のアメリカ同時多発テロの首謀者の1人と疑われていたが、4年以上拘束されているにも関わらず、起訴されていなかった。そこでナンシーは、新たに成立した人身保護法に基づき、取り調べ記録(MFR)の提出を請求する。 一方、アメリカ政府は拘束するアメリカ軍に起訴するように命じ、スチュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が担当となる。中佐は綿密な調査を始めるが、起訴するにはMFRが必要と判断し、政府機関に属す友人のニック・バックランド(ザッカリー・リーヴァイ)に頼むが……。

76点

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 実話の映画化。なかなか恐く衝撃的。そして非常に重い。確かに主人公は疑われる要素がたくさんある。アルカイダの幹部と知り合いだとか、オサマ・ビン・ラディンと電話したことがあるとか、お金の動きがあったとか……ただ、ちゃんと裏付け捜査もしていないようだし(尋問だけ)、取り調べをした人物の証言のみで、証拠もなしに、怪しいというだけで拘留を続けていくという恐ろしさ。さらに早く犯人を特定して責任を取らせたい政府の思惑で特殊尋問(!)を許可されると、まるで独裁政権下の拷問のような様相を呈してくる。これは国を問わず、時代を問わず、世界共通のような気がする。どこでも誰でも、やるときはやる。人間の性なのかと。

 そして、期限を切って(もちろん、いつまでもダラダラと取り調べをやっているわけにはいかないが)それまでに犯人を特定しろというようなことは、いい加減な取り調べ(尋問だけで捜査はしない?)、こじつけ、でっち上げというものが出てくる可能性がグンと高まるのではないかと思わされる。恐ろしい。弁護士にしても、正義のためというより、実績を積み、戦いのための戦いのような側面があるようで、それもまた恐いなあと。

 ただ、それを糾弾しようとする人もちゃんとアメリカにはいると。そしてそれを出版する人も、映画にしてしまう人もいると。イギリス映画だが……。

 空しく感じるのは、主人公は毎日神様にお祈りしているというのに、何年も拘禁され続けたという事実。よく信仰を失わなかったなあ。

 演出として、通常のシーンではシネスコ・サイズで、グアンタナモのモハメドゥのシーンになるとスタンダード・サイズになり、閉塞感などを感じさせる手法はなかなか効果的だった気がする。うまい。監督はケヴィン・マクドナルド。もともとドキュメンタリーの人のようだが、劇作品では、恐ろしい傑作「ラストキング・オブ・スコットランド」(The Last King of Scotland・2006・英/独)を撮った人で、ほかにもボクが見た作品だと傑作社会派サスペンス「消されたヘッドライン」(State of Play・2009・米/英/仏)を撮っている。やはり凄い実力の持ち主。

 出演者も皆うまいが、驚かされたのは政府機関の男ニック・バックランドを演じたザッカリー・リーヴァイ。ザッカリーといえばアクション・コメディの「シャザム!」(Shazam!・2019・米/加)とか、TVのスパイ・コメディ「CHUCK/チャック」(Chuck・2007-2012・米)とかで、コメディの人という印象が強い。それが本作ではまったく笑わず、シリアスなちょっと恐い役を演じるとは。違和感がないことに驚かされた。ただ、どこかで見たことあるなあと思ったら、あの人だったと。

 銃は、警備に当たるアメリカ兵がM16A2を使用している。

 ラスト、実際の映像が出る。みな実際の人物の雰囲気に良く似ていて、その辺も気を使っているんだなあと。そして、それぞれの人物がその後どうなったかも出る。2009年にオバマ政権がグアンタナモ収容所の閉鎖を表明したものの、いまだ実現していないというのがさらにショックだ。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、2日前にネットで確保。当日は25分前くらいに開場。長いようなので先ずトイレへ。観客層は中高年がメインで、やや高寄り。最初8人いて若い人は1人。女性は12人になったところで2人という感じ。だいたいそんな比率で、最終的には117席に8.5割りくらいの入り。決して楽しい映画ではないが、結構注目されているようだ。ただ、4Dスクリーンの影響か、ドーンと響くような音がしていたのは気になった。

 10分前くらいから曲が流れ、シネマチャンネル、飲食OKで半暗になり、非常口ランプ消えて、さらにCM・予告の後、マナー、忘れ物注意で暗くなり、映写機のマスクが左右に広がり、フル・サイズでまぶしい足元注意の映画泥棒、映倫ときて本編へ。


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