期待以上の面白さでビックリ。見て良かった。てっきりもっとお手軽なB級コミカル・アクションかと思ったら、最初に「やや実話」と出るように、実話から作られた大真面目な大人の童話だった。美男美女が偶然にも出会って、恋に落ち、すったもんだの果てに結ばれて仲良く暮らしましたとさ。そんな映画。メインは実際にあった囮捜査で、そこに、とんでもない悪党刑事があらわれて揺さぶりを掛けてくる。 うまいのは、ベースをコメディではなく、わりと真面目な警察ドラマに置きながら、コミカルな味付けにしていること。そのバランスが絶妙。わざとらしさはなく、怖い部分もある。ただ、人が死んでるからなあ。これでこのまま終わりというのは…… 死なない方向でまとめられなかったのだろうか。そこが惜しい。日本人との感覚の違いかなあ。 素晴らしいのは、主演のグレン・パウエル。「トップガン マーヴェリック」(Top Gun: Maverick・2022・米)ではちょっと生意気な若手パイロットを演じていて、「恋するプリテンダー」(Anyone But You・2023・豪/米)は見ていないが予告の印象でスカした二枚目気取りのいけ好かないヤツみたいに思っていたら、つい最近「ツイスターズ」(Twisters・2024・米)で見直した。チャラい感じを持ちつつも、しっかりとした存在感を持って主人公も演じられる演技派かもしれないと。そしたら本作でしっかりそれを証明してくれた感じ。日本での公開はアメリカでの公開順と違うけど。本作ではいろんな人物をコスプレのように演じ分けているが、特に凄いと思ったのは、どこかパッとしない地味なコミュニティ・カレッジの講師から、囮捜査の最前線でヒットマンを演じたときのキリッとした感じのギャップの凄さ。とても同じ人物とは思えないくらい。すごい演技力! すばらしい。単なる二枚目、筋肉ムキムキじゃない、演技派だったんだ。 ヒロインは、プエルトリコ出身のアドリアナ・アルホナ。マーベル・コミック映画「モービウス」(Morbius・2022・米)にも出ていた中村アン似の美女。本作ではますます中村アンに似てきた感じで、とても魅力的に描かれてい素敵。かなり大胆な絡みもあり、自分の体を契約書に見立てて、ここにサインをと言ってキスさせるところや、詳しく隅々まで読まないととか、笑わせながらなかなかH。そして「こんなの久しぶり。楽しかった」というようなセリフはちょっとステキかなと。たぶん男性観客の多くが「惚れてまうやろう」状態になるのでは。 監督・脚本・製作は、リチャード・リンクレイター。ギャング映画の「ニュートン・ボーイズ」(The Newton Boys・1998・米)や音楽青春映画「スクール・オブ・ロック」(School of Rock・2003・米/独)を手がけている人。実写から起こしたというアニメ「スキャナー・ダークリー」(A Scanner Darkly・2006・米)はピンとこなかったが、最近だと「30年後の同窓会」(Last Flag Flying・2017・米)は感動した。ラブ・ロマンスもよく手がけているようなので、そこら辺が融合したのが本作かなと。 銃は、ポンプ・ショットガンがイサカのモデル37、女が手に入れるスナブノース・リボルバーはたぶんモデル36チーフ、そして警察はグロック。 繰り返し出てくるフレーズは「人は変われる」。そもそもコミュニティ・カレッジの講義でそう教えている。そして冒頭の、殺し屋=ヒットマンの説明でたくさんの映画が出てくるが、そこに日本映画もあって、一瞬だが宍戸錠もいたような。男は犬が苦手で猫を飼っていて、女は猫が苦手で犬が欲しいと。そしてコミュニティ・カレッジ講師の普通の男は目立たないタイプで、乗っている車はシビックだとみんなに当てられる。こんな小ネタも面白い。 公開3日目の2回目、新宿の劇場は10分前に開場。しかしスクリーンは最上階の1つ下で、エスカレーターで上がるとたぶん5分は掛かる。すでに案内が流れていた。人がいないのに誰のために流しているんだろう。最初から観客に見せるつもりなら5分は早く開けないと。観客層はほぼ中高年。男女比は意外にも半々くらい。若い人はちょっとだけいた。最終的には232席に9.9割くらい、ほぼ満席。この面白さなら、これくらい入って当然かと。 スクリーンはシネスコで開いていて、案内から、明るくてよく見えない予告から、途中でほぼ暗くなってCM。枠付きの映画泥棒、映倫から、予告。ラストに映写機のマスクが左右に広がって、フルでアニメのマナーで本編へ。 エンド・ロールと公式サイトによれば、この作品は2001年の『テキサス・マンスリー』という雑誌に掲載された記事がベースになっているそう。そこから「やや実話」となるわけだ。どうやら殺人を依頼するエピソードは本当のものらしい。そこも興味深い。 |