面白かった。楽しめた。滝沢(曲亭)馬琴が、28年の歳月を掛けて、息子を失い、妻を失い、失明してもなお『八犬伝』を書き続けた姿が感動的。虚と実をどう描くべきか、創作活動をする者にとって、おそらくこの映画の監督にとっても、重要な問題。現実の世界では悪が勝つこともあるから、せめて虚(小説)の世界では正義が必ず勝つ物語を書きたいと。 原作は滝沢馬琴ではなく、山田風太郎の『八犬傳』で、朝日新聞に連載されたものだそう。滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』(「虚」パート)と、滝沢馬琴がそれを書き始め、28年かけて書き終えるまでを追った実話を基にした部分(「実」パート)をない交ぜにして映画としてまとめたと。 3D-CGも素晴らしく、わりと自然で違和感はないが、実パートがほとんど完璧でレベルが高いのに、虚パートは原作が伝奇というかファンタジーであるためか、若手俳優が出ていることもあってか、子供向けの変身ヒーローとか戦隊ヒーローの特撮ドラマのような印象。確かに八犬伝は戦隊ヒーローかもしれないけど。3D-CGはレベルが高いのになあ……。 ボクはNHKの人形劇世代なので、八犬伝というと『新八犬伝』が最初に思い浮かぶクチ。人形を辻村ジュサブローが手がけ、玉梓が怨霊の怖かったこと。あのインパクトに比べると、時代とか郷愁ということもありながら、虚パートが物足りない感じ。 わかりにくかったのは、葛飾北斎がせっかく描いた挿絵の下絵をすぐに捨てること。意味ないじゃん。映画的演出? 城主の里見義実もわかりにくいキャラクターだったなあ。ほとんどバカ殿。悪い人じゃないのに諸悪の根源という感じ。しかも最後までしゃあしゃあと生き残ってるし。 銃は、火縄銃が虚パートに登場。あれっと思ったら、劇中、生原稿を読んだ北斎が、この時代に鉄砲はあったのかと聞いてくれた。すると馬琴は鉄砲が伝来するのはこの話の数十年後だが、物語を面白くするために(虚の世界だから)あえて入れたというような返事をする。なるほど、知らないで書いたのではなかったと。原作の『南総里見八犬伝』に銃は出てくるのだろうか。それともこれは映画のウソ、虚なのか。ちょっと気になる。 色調は黄色みを帯びたかすかなセピア調で、時代感を出しているよう。確かエンドロールでカラリスト(カラー・コレクション)がいた気がする。邦画ではあまり見かけない役職。それだけ気を遣っているということだろう。ただ、どうせやるなら、実パートと虚パートで色調を変えるとか、実パートはドラマ中心なのでビスタにして、スペクタクル・シーンもある虚パートはシネスコにするとかしても良かったのでは、という気もした。 監督・脚本は曽利文彦。最近だと「鋼の錬金術師」(2017・日)シリーズの人だが、ボク的には面白かった「ピンポン」(2002・日)の印象が強い。そのつながりから中村獅童が歌舞伎パートで出演しているのか。 公開2日目の初回、日比谷の劇場は27〜28分前に開場。観客層は中高年メインで、やや高寄り。下はじいじに連れられた小学校低学年くらいの男の子。男女比は4.5対5.5くらいで、やや女性が多め。プレミアム席がメインのスクリーンで、10席×4列のP席には20人くらいが、10席×1列のDX席にはたぶん1人が座った。最終的に436席の4.5割くらいが埋まった。 |