いやあ、映画らしい映画。アクション的なミステリーと言うべきなのだろうが、逃げ続ける犯人のロード・ムービーとしても楽しめる。いつバレるのか、いつ追っ手がやってくるのか、ハラハラドキドキ、結構怖い。演出的にも逃げる背中をよく見せるから、より追われる感が強くなる。しかも冒頭から、観客は主人公が真犯人ではないと信じて見てしまうわけで、逃げてくれ、逃げろと思ってしまう。うまいなあ。そして、何より冤罪は恐ろしい。 カメラと共に逃げて、走ったり、飛び降りたり、その辺は機動性の高いビデオ的な手法とも言えるものながら、全体としては極めて映画的な印象。細かくカットをつないだり、鏡をうまく利用していたり、音も巧妙に使われていて、それらが映画らしさを増しているのかもしれない。「ありがとう」と口だけ動かさせたり、裁判長の「主文……」というところ、そのあとを無音にして傍聴席のリアクションでみせたり、うまい。 脚本も素晴らしい。とくにセリフは生きた言葉という感じがして、とてもリアル。大阪方面のヤクザも怖いが、東京の警察幹部も怖い。 画質も良い。解像度が高く、色もちゃんと乗っている。屋外はともかく、室内の絵はても高画質。音も、盛り上がるべきところで曲が大きくなったり、無音を使ったり巧妙に使われている。特殊メイクも、長髪とヒゲは漫画チックだったものの、接着剤でまぶたをくっつけたりするところは怖いくらいにリアルで効果的。美形の横浜流星(まつげ長〜い)が、イギリス人英会話講師を殺害して逃走した犯人みたいになってゾッとした。 キャストで印象に残ったのは、ヤクザ系のキャラを演じた方々。建設会社の責任者を演じた駿河太郎がうまいのはわかっていたが、SixTONESの森本慎太郎のうまいこと、驚いた。チャラついた雰囲気、彫り物もちょっと入れた金髪のアジア人の感じが実に見事。こういうヤツいる、という存在感。とてもアイドルとは思えない。「燃えよ剣」(2021・日)で新撰組の隊士を演じていたらしいが…… 今後大いに期待かもしれない。 銃は、警察官や刑事がS&W M360Jサクラらしいリボルバーを使う。ガンエフェクトは早川光。 染井為人原作の『正体』は今回が初めての映像化ではなく、すでに2022年にWOWOWで連続ドラマ化されているのだそう。あらら。そういえば、同じ邦画で「本心」ってなかったっけ? 流行りなのか、似てて間違いそう。 公開3日目の初回、新宿の劇場は早朝のためビルが開いたのが25分前。映画の日で、入場料が一律1,000円なので大混雑。自動発券機の前には長蛇の列。考えてもうょっと早めに開けてくれないとなあ。チケットを受け取ってトイレに行ったら、10分前くらいとなり入場開始。そこからエレベーターで上がると、すでに案内を上映中。10分前には自動的に始まるようで、誰のために流しているのやら。 観客層は若い人から中高年まで幅広く、男女比は4対6くらいでやや女性の方が多い感じ。これはおおむねヒット作のパターン。最終的には580席に6.5〜7割くらいの入り。早朝にも関わらず、話題作だし、映画の日だし、なかなかの入り。 スクリーンはシネスコ・サイズで開いており、案内、予告の途中で半暗になり、映画泥棒、映倫があって、再び予告。映写機のマスクが左右に広がると暗くなり、フル・サイズで忍たまのマナーのあと、富士山の松竹のロゴから始まる本編へ。 |