New York Diary

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2005年9月1日(木)

 


行きの飛行機から。カナダ辺り。

Anneの宿に厄介なるのは一年半ぶり。夕方着。Anneはちょっとでかくなっていた。アメリカ流熱烈キッス歓迎をうける。Fang(ファン=犬)も元気そう。

夜は早速ライヴを聴きに行った。Brian Blade Follow Shipを聴きにVillage Vanguardへ。柔らかで、複雑味があって、色彩 感豊富な美演。Kurt Rosenwinkel(g)の音創り、ディレイが独特で感心。Brianのドラムスも素晴らし。15年ぶりのV Vanghardはちっとも変わっていなかった。いや、あの日あったM Gordonさん(元店主)はもういないんだよな。


Anneの宿にて。ライヴから戻ったことろ。

 

2005年9月2日(金)

 

昼間Chelseaの街をぶらついた後、夕方MOMA(ニューヨーク近代美術館)に入った。新しいMOMAへ。金曜日16:00からは無料で入場出来るのだ。メイン・コレクションが勢揃いしたMOMAの展示はやっぱり世界一。圧巻。あれなら$20ちゃんと払って入っても充分おつりが来るくらい。と云うよりMOMAの為だけにNYに来ても損はない、と感。新しい建物も素晴らし。


MOMAの中庭にて。


Pollockの作品の前で。

夜はJohn Zoneらの演奏を聴きに。今年の春先に出来た新しいハコStone。ここはJohn Zoneが音楽監督をしているらしい。酒も飲み物さえも出さない、音楽を聴く、演奏する為だけの空間。7人ほどの演奏家、彼らがいくつかの形態で短めの即興を演奏。荻窪Goodmanにいる気分になる。イクエ モリ さんも出演。

夜中の街をジンベエに下駄で歩く。カラン、コロンと。ニューヨーカーの反応はと云うと、どうやらジンベエにはさほど珍しさは感じないようだが、下駄 には少なからず驚きがあるよう。みんな面白いように振り向く。

 

2005年9月3日(土)

 


昼飯はhumms。激ウマ。Cafe Orlinにて。

昼飯の後近所を歩いていたらEast Village Festivalに出くわす。この時期マンハッタンでは様々なFes.が行われるらしい。なかなか楽しい。そこから少し北に上がってUnion Squareへ。ここでは週に何度かオーガニック市がある。Anneのために花束購入。


Anneの宿(中央)の前で。 MASAMI参上。

夜はこの旅では初めて55Barへ。Ayana Loweを聴きに。と云うよりJohn Hart(g)が実は聴きたかった。堅実で卒のない演奏のJ Hart。Nice!そして思いがけず素晴らしかったA Loweの歌声。分厚く、決して重くなく、強く、厳しくも優しい声。ゴスペルを核にジャズ、ブルースを自由に行き来していた。Jack2杯で気持ち良く酔。


Ayana Lowe at 55Bar。

この夜はライヴのはしご。真夜中24:00頃B・B・KingB&Gへ。Leo Nocentolli(g)を聴きに。そうあのMetersのギタリストだ!滅多に聴けない、生Meters。ちゃんとMetersとしてのギグではないのでちょっと躊躇したが足を運んだ。でギグは...最後だんだん緩いセッションになってきたので途中退場。でも行って良かった。実際Metersは特別 だった。何が?ひと言=休符が、だ。スゲエ隙間!

 

2005年9月4日(日)

 


一緒に泊まってたWolfgang(from Frankfult)。いい奴だったなあ。

Anneの宿にはドイツからの客が多い。ドイツの友人が本に書いてくれたとの事。他ノルウェー、イギリス、カナダからとさすがに国際色豊か。ただアジア人の客がいなかったのがちょっと残念。

夜Tonicへ。2日に偶然お目にかかったイクエ モリさんらのギグを聴きに。モリさんのラップトップとハープというちょっと奇妙な取り合わせがかえって面 白かった。またタイバンの女性ノイズ・デュオ「Fmail」にとても惹かれた。一聴轟音の洪水とも思える音響が、実は血液の流れにも似た静けさを持っている。そんな音楽。心地よし。ギグが始まる前、2日に見かけた在住日本人女性(らしき)にひと声かけてみたら「こちらでギターウルフらのブッキングをやています」との事。工藤さん。NYで色んな日本人女性が頑張っている。


Fmail at Tonic。

 

2005年9月5日(月)

 

昼間、9/11の灯籠流しの為の灯籠作りをやりにNY本願寺へ。これは「New York de Volunteer」という団体への参加。色んな在住日本人に出会うことが出来て、極楽しい時間だった。NYにおいてでも、ひとたび日本人の集団になると、人々の間に「日本的距離感」が出来上がっているのが面 白い。日本人は音楽だけでなく、無意識のうちに「間」でコミュニケーションをとっている。


New York本願寺にて。灯籠作り風景

夜はいよいよMikeのギグへ。今夜のベーシストはなんとR・Bona。最高なギグだった。Mikeのオリジナルも良かったのだが、数曲取り上げられたスタンダードが絶品。ジャズでありながらそれを否定しているギグ。それこそが本当のジャズだ。Bonaと演奏しているMikeはいつも笑顔でホントに楽しそう。「On Green Dolphin Street」最高!ドラムスのLionel Cordewも強烈。デニチェンに匹敵するハイ・パワー。Bonaはとても日本人が好きらしい(特に女性?)。休憩中そこら中の日本人としゃべりまくっていた。かみさん、BonaとMIkeからサインをもらう。Mike「来月クリニックのために日本に行くんだよ」と。忙しい人だ全く。


Cordew,Bona,Mikeと俺の耳。55Barにて。

 

2005年9月6日(火)

 

昼間Nolitaの街を歩く。新進気鋭のデザイナーの店が軒を連ねる街でかみさんのお気に入り。Cafe Gitanneというフランス風のカフェにやっと入る。やっと、と言うのはいつも満員で入ることが出来なかったから。さすがフランス風、エスプレッソがちゃんと旨い(アメリカのコーヒーはまだまだ不味いのが多いので)。店員のねえちゃん達もちょっと洗練されている気が。その後私のお気に入りのインチキ日本風カフェ「Cake-o ケイコ」を探したのだが、もう無かった。かなりガッカリ。NYは厳しいなあ。


Nolitaにて。French Bull公。

夕方からかみさんと別行動。かみさんは街へ買い物に、私はEri Yamamotoさんのギグを聴きに又55Barへ。彼女の演奏も会ったのも初めて。心地良い演奏だった。角の取れた丸くて優しい音。フレージングも自然且つ繊細。いつまでも聴いていたい、と感。休憩中エリさんと暫く話す。演奏同様とても優しい女性だった。NYではもう10年活動していて、現在週に3、4本のギグをこなしているらしい。素晴らし。この時からすっかりEri Yamamotoファンになった私だった。


Eri Yamamoto Trio。55Barにて。

 

2005年9月7日(水)

 

昼間Chelseaのギャラリー街へ。さあ色々廻るぞと意気込んでいたら、なんとclosedの看板のオンパレード。どうやら夏休み後シーズンが始まるのは、多くは15日以降の様だった。でも幾つかの(30件程)ギャラリーは既にオープンしていて良い作品も観ることが出来た 。


とあるギャラリーにて。

そして夜はいよいよYankeeStadiumへ。ヤンキース対デビルレイズ観戦。ライト側外野席へ。以前レフト側に座った事があったが、こっちの方が断然観やすい。そしてファンの勢いも断然強烈。私らの四方八方から放送禁止用語の嵐が吹き荒れる。「You s○ck!」「F○ck out!」「Sh○t eat!」等々。そんな中でホントものスゲエ一生モノの体験をさせてもらった。試合はと言うと。

初回いきなりデビルレイズに4点入れられ、なんてこった負け試合に来ちまったかと思っていたら...。松井、第2打席でなんとHRを打った!日米通 算400号。しびれた!涙が出た!周りのファン達とハイタッチや抱き合って喜んだ!なんて俺は幸運なんだろうと思。松井、代3打席では2点タイムリーで4対3に追い上げる。7回裏、一死満塁のチャンスでジーターがゲッツー。ああ、なんてもったいねえ、とがっかりしていたら、8回裏、ジオンビが逆転2ランHRを。そして9回表はリベラが登場。難なく抑えてヤンキースの逆転勝利。


打席はジオンビかな?


センター守備位置での松井


怪我をしたチームメイトを見守る松井


松井の2点タイムリーにて。

野球ファン、松井ファンにとってこれ以上の幸福がありえるのだろうか。もう俺は野球を観に行かなくてもいいのかも、と思。そして選手、球場、ファン、みんなホント素晴らしかった。松井について凄いなと思ったのは、彼はNYファン達から当たり前のように信頼されているという事だった。うれしかった。というのはファンの声援を聞いていれば良くわかる。たとえ松井が三振したとしても、ファン達はガッカリするだけだった。しかし調子が悪かったり、緩慢な選手にはたとえ贔屓のチームでも容赦なくブーイングを浴びせられるのだ(ジオンビが結構そうだった)。NYは野球でも厳しいのだ。


試合の余韻に浸るヤンキース・ファン達及び野村雅美(55)。

 

2005年9月8日(木)

 

この位になってくると旅の疲れがどっと出てくる。で、たっぷり昼寝。近所で昼飯を食って、ミッドタウンに出る。私にとってミッドタウンはあまり用のない街ではあるが、でも一度は訪れないとNYに来た気がしないのも事実。摩天楼があってこそのマンハッタンだろうから。Time Warner CenterやCentral Parkへ。色々買物。


ゴスペル姉ちゃん達。コロンバス・サークルにて。


Central Parkにて。

夜はVillage Vanguardへ。Paul Motian(ds)、Joe Lovano(ts)、Bill Frisell(g)のギグを聴きに。さすが素晴らしい演奏だった。演目はスタンダードが殆どだったが、いかにもジャズで御座いますといったスタンダード臭が全くない。セーマティックとフリーのギリギリの線でコントロールされた、実に繊細で閃き充分の演奏。合わせない事によって均衡を保っている究極のバランス感覚。スゲエ。伝統に溺れない真のジャズ魂を感。Frisellの音響、美しかった。

 

2005年9月9日(金)

 

昼から「PS1」に向かう。ここはクイーンズにある元は小学校の校舎だった所で、MOMAが中心となって現在活躍している若手新進気鋭のアーティストの作品を展示している場。生きのいい作品が観られそうだし、Anneに聞いたら「James Turrelの作品があるよ」との事で、俄然行きたくなった。で行ってみたら...正直、惹かれる作品は少なかった。それにTurrelの作品を観ることが出来なかった。何故観られなかったかと言うと、日光が強すぎたから。夕陽ほどの光でないと鑑賞できない作品らしい。いかにもTurrelらしい。 ただ一つYuken Teruyaという多分日本人作家の展示は面白し。紙袋の内側に、その側面 の紙で木が作られている(袋の内側に木が見える。後日分で写真記載)。

PS1が物足りなかったので、今日は金曜日でもあるし、MOMAが無料の日だから又行くことに。だいたい前回の鑑賞時間だけではちゃんと見切れなかったのだ。企画展の「セザンヌとピサロ」をじっくり観る。どこからあんなに集めたのだろう、もの凄い作品数。ヨーロッパ中のセザンヌ、ピサロがすかっからかんになったんじゃなかろうか。セザンヌの色のリアリティーに脱帽。真に近代絵画の父である。他ピカソにしてもダリにしても、何度観てもスゲエもんはスゲエ。理屈や意味など無用な、単なる「芸術性」の力をまざまざと感。


MOMA、ピカソ「アヴィニヨンの娘達」の前にて。


MOMA、全面マティス。

夜はDave Binneyらのギグを聴きに55Barに、と思ったのだが。NYの若手トップ・ミュージシャンが集結したギグ。さすが。大行列が出来ていて、疲れもあって諦めることに。明日聴きに来るとする。晩飯にピザを食って(これが劇ウマ!)Anneのところに帰った。

 

2005年9月10日(土)

 

昼はChelseaのギャラリー廻り。こないだは殆ど閉まっていたが今日くらいからポツポツと開きだした。かなりハイレベルの作品を目にする。シーズン始めとなると各ギャラリーの気合いも違うのだろう。特に強烈な印象を受けたのが、Mary Boone GalleryでのEric Freemanの展示。ただただ凄かった。「美」丸出しといった作品達。こいつにはかなわねえな、と正直痛感(後日分に写 真記載)。


とあるギャラリーにて。カトリーナを現した作品か?


とあるギャラリーにて 。

夕方といっても19:00頃、TribecaにあるKnitting Factoryへ。そこで「Fretlessguitar Festival」という企画ライヴが。お目当てはElliott Sharpさん。パーカッシヴでトリッキーな即興は健在。私の即興スタイルとは正反対だが、あれだけ独自性があるなら聴いていて楽しくなる。フレットレスも欲しくなったなあ。


Elliott Sharp at Knitting Factory。

昨日に続き今日もピザを食う。West Villageにある「Abinito's」ってピザ屋、実に旨い安い!それに野球中継も観られると三拍子揃っている。私らはここに幾度と無く通 うことになった。$2.25で腹一杯だ。

予定通り今日はライヴのはしご。55BarにDave Binney & Friendsを聴きに。今日も長蛇の列。えらい人気だ。Mark Turner(s),Adam Rogers(g),Brian Blade(ds),Scott Colley(b),Craig Taborn(p)と凄いメンツだ。それも肯ける。で、ギグはと言うと...。とても前向きな実直な演奏及び曲作り。なにか新しいモノを創ってやろうという意気込みが伝わる。感心。ただ演奏に関してはやや詰め不足だった気が。演奏時間も短くちょいと残念。終演後、Eri yamamotoさんに会う。彼女もドラマーのIkuo Taskeuchiさんと聴きに来ていた。後日談、BinneyやBrianらは彼女ととても親しい友人との事。「とても優しい、いい人達なんですよ」と。


Dave Binney at 55Bar。

 

2005年9月11日(日)

 

朝いちで世界貿易センター跡地へ。そうあの事件から丁度4年目の今日。飛行機が2棟目にアタックした頃の時間。早朝、しかし当然ながら多くの人達がこの地に来ていた。涙を流す人。合唱を捧げる人達。ただ沈黙して見つめる人達...。私達も合掌。目頭が少し熱くなった。


World Trade Center跡地。追悼式典の最中。

昼間、本当は音楽(フォーレのレクイエム)を聴きに行こうと訪れたSt.Batholomen's Church。すっかり礼拝に参加する事になってしまった。正直面食らったが、まあ良い経験。キリスト教の浸透圧とは...。

夕方からはボランティア。いよいよ灯籠流し。ハドソン川の埠頭にて。明るいうちに灯籠にメッセージを書いてもらい、それらを組み立て、暗くなってから点火。多くのニューヨーカー達にメッセージを書いてもらった。9・11という事件の重さをひしひしと感。皆とても神聖な気持ちになっている事が手に取るように解る。本願寺和尚らによるセレモニーの後灯籠流しに。


灯籠にメッセージを書いてもらうの図。


灯籠にメッセージを書いてもらうの図その2。


灯の灯った灯籠達。

私は桟橋に降りて灯籠をもって降りてきた人達から、灯籠を引っ張ってくれるカヌーイスト達に渡す役目。なかなか大変。灯籠が流れている間、和尚のお経や、その他違う宗教のお経(コーラン、ラーガ等)が読まれる。マンハッタンの夜景に一筋聳える青い光(WTC跡地から天空に向かって照らされたもの)。川面 には幾筋もの灯籠の幻影。そしてお経。人々の祈り。忙しいながら涙がこぼれた。あまりに美しい時空間だった。

灯籠受け取り役をやっていて、ちょっと面 白かったのが。これが仏教的儀式と知っている人が多いのか、灯籠を受け取っている私に対して、とても有り難そうに手を合わせて、さらには深々と頭を下げていく人が少なく無かったって事。私がスキンヘッドで上から下まで黒装束だったせいで、すっかり坊さんだと勘違いしているのだ。無宗教な私故にとんだインチキ坊主だが、折角だから成りきっておいた。それにしても白人や黒人の人達に深々とお辞儀されるのはなかなか不思議である。

「9・11」で亡くなった方々のために、一度は何かしたいと思い参加したボランティア。素晴らしい体験だった。もし来年もあるのなら又参加してもいいな、と感。何か別 のかたちで(音楽その他で)。打ち上げでカヌーイストの一人があの日の体験を語り、大泣きしていた。実際にNYに居なかった私達には到底知り得ない、深くえぐられた心の傷。その傷にはいまだカサブタさえも出来ていない様だった。

 

2005年9月12日(月)

 

私達が泊まってるEast Villageにはたくさんの気持ちのいいCafeがあって有り難い。料理も一昔前と違って旨いし。何故が中東系料理ばかり食ってしまうのだが。


Cafe Mogadorにて。East Village。

昼間はそれぞれ欲望に任せてお買い物。私はUnion Sq.にあるVirgin MegaでCDをしこたま買ってしまった。Eaglesのディスクが一枚$5で売っていたのだ。4枚買って新たなコレクションが始まってしまった。

夜はMike先生に会いに。2度目。メンツはChris Minh Doky(b)、Bob Franceschini(ts)、Kim Thompson(ds)。ドラムスのKim嬢、1時間以上の遅刻。どうやらダブル・ブッキングだったらしい。大した根性だ。仕方なしに3人で新曲の練習を披露するMike達だった。

実はMikeのギグには3度行ったのだが、この日の演奏が最高と感。Mikeのオリジナルだけ演奏。洗練されて締まったギグ。ベースのDokyの安定感が素晴らし。外連身なし。好きだなあ。サックスのBobも凄えテクニック。デカくてイカツイのに何か可愛らしくていい奴なんだよな。Kim嬢も切れ味充分の4ビートが心地よし(ちょっとやかましかったかな)。Mikeも素晴らしいソロの連発。特に速い曲で矢継ぎ早に出てくる高速フレーズには参りまくり。「すいません、先生!練習しますっ!」って感じ。いやあ、幸せ、幸せ。帰りがけMikeに「Michel Breckerに最近会った?」と聞いたら「会えるような病床じゃないんだよ。でも希望を持って見守ろう」と云っていた。ドナー見つかったのかな?


Mike、Kim、Bobの熱演。


Mike Stern Band at 55Bar。

 

2005年9月13日(火)

 

昼間、17年ぶりにMet(メトロポリタン美術館)に。かみさんの好きなマティスの企画展もあって。久々のMetは新鮮だった。人の記憶というのはいい加減なモノで、以前観たであろう作品も殆ど憶えていない。それがかえって良かった。ここでもピカソの力の感服。ジャコメッテイの「心の闇」も強感。マティスの展示もナイス企画。マティスが描いたモデルが着ていた服飾品を、絵画と同時展示すると云うなかなか無いモノ。他、近現代の作品も多く展示する様になっていたのが嬉しかった。Metでコンセプシャルやヴィデオ作品を観られるとは思わなかった。MOMAがあって、Metがあって、Whitneyがあって、Guggenheimがあって、Chelseaのギャラリー街がある。マンハッタンは音楽好きよりも美術好きにとっても天国じゃないだろうか。正直云って、東京で高い金とって開催している○○展などは、ちゃんちゃらおかしくなる。


ピカソの作品たち。Metにて。


ジャコメッテイの彫刻。 スゲエ。


マティスの作品とかみさん。

夜は私だけギグを聴きにJoe's Pubへ。Pierre Bensusanと云うちょっとした生ける伝説的なギタリストだ。何年か前来日して、P・バラカンが絶賛していた。なかなか聴ける人じゃないので行ってみる。完全ソロのギグは、クラシカル、ボッサ、フォーク、出生国のイスラム音楽等、実に多様なギター・ソロ。テクのかなりのモノだった。しかし肝心の曲に惹かれるのが無かったし、音色も美と感じなかった(バラカンが絶賛する音楽家って大概はずすんだよな)。でもギターと云う楽器の幅広さ有能さを再確認させてもらい良い体験だった。


Bensusan at Joe'sPub。

 

2005年9月14日(水)

 

疲れがどっと出てきた。今日は殆ど大したことやらずに一日を終わらす。写 真も一枚も撮らず。

いや、昼間にハーレムに出てスタジオ美術館(黒人アーティストの展示が主)に入ったのだが、展示は対して面 白くなし。ただとてもカッコイイ冊子を貰えて満足。ハーレムの街も更に洗練されていた気が。折角だからソウル・フードでも食ってみようかとも考えたが、疲れのためか内臓の調子も良くなく、食欲も乏しく。

夜はライヴにも行かずさっさと帰って寝る。

 

2005年9月15日(木)

 

昼間、3度目のChelsea廻り。とてもいい出会い多し。フランスからやって来ていたMarc Ashさん。Jasper・Jonesら新表現主義を彷彿とさせるエッヂの効いた作品が気持ち良し。「例えば生と死、天と地など二律背反を画面 に現した。しかし作品を観た印象は、観た人それぞれ違って当たり前だ。」とAshさん。作品の内容を自ら説明しながらも、しかし観る者によって様々であって良しという、一聴矛盾を孕んでいるかの様な話だが、これもありだな?悪いことではないな?と思。彼、これからイタリア、イギリス、ドイツ等ヨーロッパを渡り歩いて行くらしい。いつか日本にも来て欲しいな。


Marc Ashさんと。Remy Toledo Galleryにて。


とあるギャラリーにて。

PS1でも展示があったYuken Teruya氏の展示に出くわす。前述した通 り紙袋で木の飛び出す絵本を作った様な作品達。チープな素材ながらとても洗練された印象。何よりアイディアが素晴らしい。やったもん勝ちだ。


Yuken Teruya作品。Josee Bienvenu Galleryにて。

夜は先ずArthur's TavernへEri YamamotoTrioを聴きに。今夜は生ピアノと演奏のエリさん。エレピのエリさんも柔らかで良かったが、アコースティクでも繊細さが更に増した気がして気持ち良し。Jacoの「3 Veiw Of Seacret」も演奏。じーんときた。演奏後、彼女と結構長々と話す。ホントに素晴らしい人格の女性。知り合えて嬉しかったなあ。彼女、毎週木、金、土曜の夜、ここで演奏している。凄い!11月には日本でライヴ・ツアーがあるよう。


Eri Yamamoto Trio at Arthur's Tavern。


Eriさんと。

その後またもやピザを食ったら、ライヴのはしご。55BarにWayne Kranzを聴きに。と言うより本当は共演のAnthony Jackson(b)を聴きたかった。で、極素晴らしかったA・Jackson!滞在中多くのトップ・ベーシストを聴いたのだが、正直彼のが最高だった。音の量 感、質感、そしてグルーヴ。うねる、うねる、リズムが!手数音数ではなく、ベースの特性を最大限に活かしたプレイ。圧巻。W・Kranz(g)も前回はがっかりしたのだが、今回は良かった。場の展開力が凄いし、コード感も抜群だった。ただ今回も曲に不満が。歌心がなあ。客席に矢野顕子さんが来ていので、ちょっと挨拶を。チャーミングだった。

 

2005年9月16日(金)

 


Cafe Mogadorにて昼飯の図。

夕方過ぎ、Battery Parkに。自由の女神への玄関口、マンハッタン最南端。ここで数日間野外のダンス・フェスが開かれた。入場無料。こういう催しが沢山あるのもNYの嬉しいところ。私らは3日目のMerce Cunningham DCの回に行く。広葉樹の生い茂る公園にカクテル・ライトが灯された舞台は薪能の空間に似た幽かさがあって心に滲みた。舞台音楽家の一人に小杉武久さんの名が。


Merce Cunningham Dance Company at Battery Paark

その後私だけライヴにここでとても貴重な体験が出来た。James Carter(s)のギグ。これも本命はJames Blood Ulumar(g)。ヘタウマ・ギタリストで有名?しかしOrnette Colemanの流れを汲む彼を一度体験しておきたかった。ギグはフリーキーでありながらエンターテイメントを失わない楽しいモノだった。Ulumarも言葉に表せないような魅力。なんなんだろう?あれは?

演奏も良かったが、それより有り難かったのがGeorge Bensonさんの登場。ひとは良くVIPと言う言葉を口にするけど、さてではどんな人が?という問いの答え。それが私の直ぐ目の前に現れた(初めは客として)。オーラを発するとはあの事。彼が登場するや否や、店員達にピリッと緊張感が走る。そして私自信もピリリと。George Benson。実は私が学生の頃、大いに憧れたギタリストだった。ああいう風に弾けなければいけないと思っていた。尊敬の念はいまも消えていない。 暫く客のままでいた彼もついにはCarterに促され、ブルースを一曲セッション。スキャットで。客が沸きに沸いた。面 白かったのがBensonとUlumarが実はマブダチだった事。同じデトロイト出身とか云っていたっけ。隣の客にUlumarのギタリストとしての素晴らしさを熱弁していたのが印象的だった。そして終演後うまくチャンスがあって、Bensonさんに感謝の気持ちを伝えた。「永年あなたを尊敬し続けています。あなたがいたからいまのギタリスト・野村雅美があります、と。」「Thank You. My pleasure.」とBensonさん。幸せに浸りながら店の外に出ると、なんとどでかいリムジンが2台、デーンと横付けされていた。白塗りと黒塗り。多分白いのがBenson仕様だろう。全くドデカイ人だなあ、スケールが違うなあ、とつくづく。自分に強く影響を与えてくれた人には、その人がどんなに偉大な人であれ必ず会うことが出来るのだなと実感。小澤征爾さんにも会えたし。


James Carter at Blue Note。

 

2005年9月17日(土)

 

昼間4度目のChelsea廻り。ここでも素晴らしいアーティスト、作品との出会いを持てた。総じてシーズン始まりのギャラリーは気合いが入っていて、ハイレベルな作品、作家が目白押しだ。技術が高くそして独創性もある。美術家が本来持つべきであり、しかし殆どの美術家が持てないそれら二つの要素をしっかり持った作家達。さすがだ。


The Kitchenのイベント風景。

広島在住のZero Higashidaさんに会った。鉄板や鉄筋を大量 に使った重量感たっぷりの作品がカッコ良し。「作品から無(む)の境地を伝えらればいいな。でも作品から得られるものは観る人それぞれであっていいんです」とzeroさん。確か先日のAshさんも同じような事云ってたっけ。当たり前だよな、美術なんだから。政治や宗教、ましてや医療でもないんだから。それにしても「無」か。これは実は凄い事だと私は思。詳しくは語らないが。彼とは精神的な強いつながりを感じた。彼も「何かの縁でしょう」と。人間的にもとても優しい人格者で、これからもずっと影響しあっていきたいと感。


Zero Higashidaさんと。Robert Steele Galleryにて。

もう一人日本人美術家に出会った。加藤登美子さん、NYに10年在住の日本画家。絵の具を日本から取り寄せて制作しているらしい。岩絵具のマチエール、匂いに突然出会うと、急に懐かしい気持ちになるのは遺伝子のなせる業か。「NYはとても生きるのに厳しいけど、自由なんです」と加藤さん。強いエネルギーを頂いた。ここのギャラリーのオーナーさんも日本人。竹本三鈴さん。NYのアート・シーンについて、とても親切に話して下さった。感謝。


Tomiko Katoさんと。Caelum Galleryにて。

夜、Adam Rogers(g)のギグを聴きに。ハリケーン・カトリーナの救済募金を兼ねたギグ。NYの芸術家達はこういう事に素早く動ける。見習うべし。ギグは思いがけずスタンダード・ジャズ演奏。セッション・ギタリストの彼だから、もうちょっとクロスオーバーな音楽を期待したのだが。しかしテクは大変なものだった。特に速弾きがマクラフリンの様で。速く弾けるというのは、やはり凄い事だ。


Adam Rogers at Jazz Gallery。

 

2005年9月18日(日)

 

昼間はチャイナタウンに行ってメシを食ったり、リトル・イタリーの祭り見物したり。でもあまりに日差しが強すぎて気分が散漫になる。ホント連日暑いのだ。太陽の殺傷能力が東京より断然強い。NYはオゾン層がより薄いのだろうか?


Nolitaにて。光波測定器を操る人。

夜はFat Catと云うスポットへ。大変な巨匠達のギグを聴きに。Frank WessとJimmy Cobbらのギグ。ジャズに多少精通している人なら彼らの偉大さは説明不用だろう。私個人的にも彼らからものすごい恩恵を受けている。CobbさんはMiles DavisやWes Montgomery,Winton Kellyら伝説の巨人達と録音を残しているし、WessさんはCount Basie楽団で素晴らしい演奏をしてきた。彼らの演奏をたった$10で聴ける。何だか心苦しい。ハコもまるで倉庫にリビング・ルームを作ったような雑多で怪しい雰囲気。

で、演奏は。言葉にしたくない程の演奏。これが本物のジャズだ、などという愚な表現しか見つからない。彼ら演奏はもう1950年代後半に確立されたハード・バップそのものだ。しかしどうしようも無い程の説得力、音の強さ、無駄 の無さ、そしてグルーヴ。こういう演奏の目の当たりにすると、生半可にジャズ演奏をやってはいけないんだと、つくづく思。プレイヤーをやっていると「ちょっとジャズやろう」などと軽々しく誘われることも屡々だが、なにがちょっとジャズ、だ。本当にジャズを愛し敬意を持っているならば、余程のの覚悟がないと出来ないのがジャズだ。私は真に幸せだった。あれだけ凄い人達の演奏を目の前で聴けたのだから。終演後、Jimmy Cobbさんと少し話せた。ありったけの感謝の気持ちを伝えることが出来た。Cobbさんも「Take It Easy.」と。やっぱNY、いい処だなあ。


Frank Wess&Jimmy Cobb at Fat Cat。


Frank Wess。奥さんは日本人の様だった。


Jimmy Cobb。

 

2005年9月19日(月)

 

今日も昼間は街歩き&買い物。ソーホーやノリータを廻る。でも何を買ったわけでもなし。ただ歩いているだけで充分楽しい。こうしている時が、この国のポリシーである「自由」を感じ得る時間なのかも知れない。特にここNYでは他民族、他人種に対する敬意、寛容、良い意味での不干渉が確実強固に存在している。

NY最後の夜は巧い具合にMikeのギグにぶつかった。今夜は半分がスタンダード。Mikeさん何時仕込んだんだろうか?「My Funny Valentine」を突然やりだした。極美。忙しい合間にちゃんと仕込んでいるんだなあ。


55Bar店内風景その1。


55Bar店内風景その2。


55Bar店内風景その3。

それよりいつもここで感心するのが、Mikeのギター音色の美しさ。素人並に少ない機材(エフェクターはリヴァーヴ、ディレイ、ディストーションのみ)でPAも無し。アンプ直のサウンドは常空中を浮遊している。まるで天使達の歌声の様なMIkeの音。彼の音を最も理想的に再現できるのが、ここ55Barだろう。1万円近く取られるBlue Note東京より、$15で2杯酒が飲めるここ55Barの方が断然いい音で聴けるのだ。


Mike Stern。


この日もドラムスはKim Thompson嬢。

常にツアーで世界を駆けめぐっていながら、NYに帰ったら必ず55Barで演奏するMike。そんな忙しくお疲れであるにもかかわらず、会う度に親切に快く私達と接してくれる彼には、改めて尊敬念が沸いてくる。彼の一徒手一頭足が私にとって掛け替えのない宝に思えるのだ。伝統を重んじ、かつそれを破壊、再構築し続ける彼の姿勢は、真の音楽家があるべき姿そのものだ。あらゆる音楽家の手本である。Thanks a lot、Mike !

 

2005年9月20、21日(火、水)

 

「色々楽しいことが沢山あるとあっという間に時間が早く感じるね」などと同調される事が偶にあるが、それを聞く度に私は?そうかなあ?と不思議に思。私の場合、楽しくて充実すればする程時間が長く感じる質なのだ。で、今回の旅は、有難いことに実に長い20日だった。沢山の人に出会えたし、沢山の音楽、美術に接した。そして出会えたみんなとの交友がこれからも続いていける事が何より嬉しい。

NYで会った多くの方々、ありがとう御座いました。そして、長い間家族のように接してくれたEast Village Bed And Coffeeのオーナー、Anneに心から感謝。Thanks !



Anneと。また戻るからね!

 

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