2001年9月22日(土)「コレリ大尉のマンドリン」

CAPTAIN CORELLI'S MANDOLIN・2001・米・2時9分

日本語字幕翻訳:戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル・dts・SDDS

〈アメリカR指定〉
1940年、ギリシアの平和な小島ケファロニア島に、イタリア軍がギリシアに侵攻したという知らせが届く。村の若者はこぞって志願し、診療所の医師イアンニス(ジョン・ハート)の娘ペラギア(ペネロペ・クルス)のフィアンセ、マンドラス(クリスチャン・ベール)も出征してしまう。1941年、ギリシアは一旦はイタリア軍を撃退するが、同盟国だったドイツ軍が増援部隊を送り込み、逆に占領されてしまう。その結果、ギリシアはドイツとイタリアに分割管理されることになり、島にはイタリア軍と少数のドイツ軍が進駐してくる。そのイタリア軍の砲兵隊の中にマンドリンを担いだ音楽好きなコレリ大尉(ニコラス・ケイジ)がいた。

78点

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 いやあ、久しぶりに嬉しい感動をした。トム・ハンクスとメグ・ライアンが共演した「めぐり逢えたら(Sleepless in Seattle・1993・米)」や「哀愁(Waterloo Bridge・1940・米)」のパターンに似た、あるいは「愛と青春の旅だち(An Officer and a Gentleman・1982・米)」のようなラストのラブ・ストーリーは作り事らしいが、それ以外は史実に基づいて作られたというドラマチックな島の歴史。この手法は大ヒット映画「タイタニック(Titanic・1997・米)」と同様で、10年以上に渡る物語はまるで「ゴッドファーザー(The Godfather・1972・米)」の年代記を思わせる。

 島は1943年にイタリア軍が連合軍に対して降伏したことから、ドイツ軍に支配されることになる。そしてイタリア軍の武器がギリシアのパルチザンに渡ることをおそれたドイツ軍は、イタリア軍から武器を取り上げようとして戦闘になる。捕らえられた約5,000人のイタリア兵がヒトラーの命令によって虐殺され、生き残ったのはわずかに34人だったという。この恐ろしい事実。まるで「大脱走(The Great Escape・1963・米)」で描かれたビッグXたちの虐殺シーンそのままの殺し方がここでも描かれている。

 それでもこれが悲惨なだけの話で終わらないのは、これをラブ・ストーリーとして作ったことと(原作通りらしい)、村の人々がそれだけ大変な時代を生き抜いてきて、なお笑顔を忘れず明るく生きていこうとしているからだ。これが、なんともこの作品に爽やかな感動を与えている。冒頭に描かれるのどかな島の様子が、ラストの15年ほど後とまったく同じ。ブラウニングの詩ではないが、「すべて世は事もなし」というその感じ。人間はどんなに悲惨な目にあっても、たくましく、しぶとく生きていくことができるのだ、そんなメッセージが聞こえてくるような気がした。

 監督は「恋におちたシェイクスピア(Shakespeare in Love・1998・米/英)」を撮ったイギリス人のジョン・マッデン。他の作品を見ていないのでわからないが、本作が圧倒的に良いと思う。まだ無冠かもしれないが、代表作になるのではないだろうか。

 出演者で目立っていたのは、なんと言ってもイアンニス医師を演じたジョン・ハートだろう。よぼよぼの感じも良かったし、一言一言が愛情があって、そして心に響いてくる。一番グッと来たのは「恋は地震のように激しく揺れて、やがて収まる。その恋が燃え尽きたとき、後に残るのが愛だ」というヤツ。うーん、深いなあ。

 もちろんニコラス・ケイジはいい。最初なまり(イタリアなまり?)のある陽気なだけのイタリア将校だったのが、次第に彼の顔から笑顔が消える。第二次世界大戦後、白いものが髪に混じり始めた彼の顔には苦悩が刻まれているようだ。それをすべて説得力を持って演じているのだから。

 ヒロインを演じるスペイン生まれのペネロペ・クルスは決して美女というのとは違うと思う。しかし、とても魅力的で愛らしい女優さんだと思う。トム・クルーズが惚れるわけだ。ラブ・シーンでは胸も露わにしているが、ワキが処理していないのは、時代背景を考えてのことなのだろうか。だふん、そうだよなあ……。

 「アメリカン・サイコ(American Psycho・2000・米)」でいやらしいヤンエグを演じていたクリスチャン・ベールがここでは学はないが真っ直ぐな若者を好演している。驚いたことに、彼はスピルバーグ監督の「太陽の帝国(Empire of the Sun・1987・米)」でムスタングに見とれていたあの少年だということ。ええっ、もうこんなに年とっちゃったの。ショック……。

 貫禄のある強い女を演じさせたら右に出るものはいないってくらい存在感のある本物のギリシャ人女優イレーネ・パパスもマドラスの母役で出演している。1929年生まれだから、もう70歳を超えたはずだが、とてもそうは見えない。せいぜい50か60っていった感じで。「ナバロンの要塞(The Guns of Navarone・1961・米)」や「眠れぬ夜のために(Into the Night・1985・米)」のときとあんまり変わっていない気がするんだけど。

 公開初日の2回め、40分前ロビーには7〜8人の20代の男女が。男女比は4:6でやや女性の方が多いか。30分前くらいから混み出し、列を作るよう案内があった。20分前に場内に入ったときは、30人前後に。

 やはりラブ・ストーリーということからだろう、カップルが目立つ。オジサン、オバサンのカップルもちらほら。

 最終的に、400席に5.5割ほどの入り。話題になっている割には少ないかも。中年以上は全体の2割。第二次世界大戦の話がメインになるのに、これはどうしたことなんだろう。

 音響は割れ気味で、比較的最近改装したにしてはいまひとつ。調整が不十分なのだろう。ピントもやや甘かった。

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