Extremely Loud & Incredibly Close


2012年2月19日(日)「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

EXTREMELY LOUD & INCREDIBLY CLOSE・2011・米・2時間10分(IMDbでは129分)

日本語字幕:手書き書体風下、今泉恒子/シネスコ・サイズ(デジタル、Arri)/ドルビー・デジタル、DATASAT、SDDS

(米PG-13指定)(デジタル上映もあり)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/extremelyloudandincrediblyclose/index.html
(音に注意。全国の劇場リストもあり)

パパのトーマス・シェル(トム・ハンクス)と仲良しの10歳の息子オスカー(トーマス・ホーン)は、父が出す謎解きの「調査探検」が大好きだった。それは、息子が他の人と話をするように配慮された謎解きだった。しかし2001年9月11日、同時多発テロによって父を失ってしまう。悲しみに暮れるオスカーは、ある日、父の遺品の中から小さな封筒に入った鍵を見つける。オスカーはそれを父の最後の「調査探検」と信じ、謎解きに挑むことにする。

72点

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 暗く、重い。もっとファンタジー寄りのものと予告から勝手に思っていたのだが、正面から9.11テロにより心に深い傷を負った遺族を描いた物語だった。これは辛い。あまりに切ない。

 てっきり9.11テロをきっかけに、父が残した謎を追って、いろんな人々と出会い、心の傷を癒し、新たに一歩を踏み出す物語だと思った。ところが、構成はそうなっているが、描かれているのは、残された者たちの悲しみ、絶望、嘆き、後悔……だった。

 つまり、謎解きはマクガフィンだ。鍵に合う鍵穴を探す物語で、ちゃんと鍵穴は見つかるようになっているが、その中に何が入っているかは描かれていない。つまり、何でも良いことなのだ。

 とにかく辛いのは残された者たちの悲しみだが、観客としては、さらに主人公の少年の声が「甲高くて」気に障り、しかも「ものすごくうるさくて」、さらに「早口でまくし立てる」こと。うんざりして聞きたくなくなってくる。ヒステリー状態。しかも、子供が使わないような学術用語を駆使し、へ理屈をこねる。大人のドアマンに平気で汚い言葉で罵声を浴びせかける、夜中にママをたたき起こす、ママが死ねば良かったという……。子供らしい可愛さがない。あえてそう演出しているのだろうが、少年に同情できないと、彼の気持ちも伝わってこない。出かける時にいつもタンバリンを持っていてチャカチャカと鳴らすのも、ガラスに爪を立てるようで感情を逆なでする。後半、声も落ちついてきて、彼がほかの登場人物に対して心を開いてくるので、気持ちが伝わるようになり、うるっと来て涙が流れそうになるのだが……。

 そしてラスト、まったく存在感のなかった母親自身の口から見守っていたことが語られるが、日本的には、ここは自身からではなく第3者から、彼女はこうしていたんだと息子に明かされる方が良かったと思う。わざと存在感を薄く演出して、ラストの衝撃を強くしようとしたのだろう。それはわかるけど、自分で言うなんて。アメリカらしいというか。

 甲高い声で早口にわめきまくる不機嫌な少年、オスカーを演じたのはトーマス・ホーン。2010年にTVのクイズ・ショーに出たことがあるくらいで、もちろん映画は初出演。印象の良くない役なので、次がどうなのか。

 優しい宝石商のお父さん役はトーマス・シェル役はトム・ハンクス。最近は役者よりプロデューサーとしての比率が多いようで、新作TVシリーズが何本も控えている。WWIIシリーズの「バンド・オブ・ブラザース」(Band of Brothers・2001・英/米)に続き太平洋戦線を描く「ザ・パシフィック」(The Pacific・2010・米)は非常にショッキングな内容だった。しかも映画並の大予算かつスケールの大きい壮大な物語。最近でメジャーな劇場作品というとピクサー・アニメの「トイ・ストーリー3」(Toy Story 3・2010・米)か。

 共働きで存在感のないお母さんリンダ・シェルを演じたのはサンドラ・ブロック。飾らない性格で、ラジー賞の授章式にも出席したのは有名。コメディの味がちょっと滲むところがあって、逆に息抜き的に良かった気がする。「しあわせの隠れ場所」(The Blind Side・2009・米)でオスカー主演女優賞を受賞。

 すべての出演者の中でもっとも存在感があって、感じの良い役で印象に残るのは、おばあちゃんの家の間借り人を演じたマックス・フォン・シドー。ホントはおじいちゃんではないかと思われていて、声が出ないのか、口が利けないという役。1950年代から活躍している大ベテラン。ドイツ人役などが多い気がするが、実際にはスウェーデン生れで、今年73歳。ボク的には本当に心底怖かったホラー「エクソシスト」(The Exorcist・1973・米)やスパイ・スリラー「コンドル」(Three Days of the ・1975・米)が強く印象に残っている。最近出ていたのはラッセル・クロウの「ロビン・フッド」(Robib Hood・2010・米/英)。

 ちょい役だが、ドアマンのスタンはジョン・グッドマン。結構アニメの声優も多い。コミカルな役か悪役かという感じ。古くはコーエン兄弟の「赤ちゃん泥棒」(Rasing Arizona・1987・米)などがあり、1990年代は出演作も多かったが、最近はメジャー作品が減り、日本公開作が少ない。ボクが見たのは「スピード・レーサー」(Speed Racer・2008・米/豪/独)くらい。

 ラストのブラックさん、ビジネスマンを演じたのは、新007シリーズのCIAのフィリックス・レイターを演じていたジェフリー・ライト。「ミッション:8ミニッツ」(・2011・)でもシステムを開発した博士という重要な役を演じていた。最初のブラックさん、女性のブラックさんはヴィオラ・デイヴィス。1990年代末から活躍していて、最近もトム・クルーズの「ナイト&デイ」(Knight and Day・2010・米)にCIA役で出ていた。

 原作はイライジャ・ウッドが出た「僕の大事なコレクション」(Everything Is Illuminated・2005・米)の原作も書いているジョナサン・サフラン・フォア。脚本は「フォレスト・ガンプ一期一会」(Forrest Gump・1994・米)や、クレジットなしだが実話に基づく「アポロ13」(Apollo 13・1995・米)など、トム・ハンクス主演作品を書き、感動作「モンタナの風に抱かれて」(The Horse Whisperer・1998・米)やイスラエルのモサドを使った復讐の実話「ミュンヘン」(Munich・2005・米/加/仏)、最近では「ベンジャミン・バトン数奇な人生」(TheCurious Case of Benjamin Button・2008・米)を書いた人。実話系が多い感じ。

 監督はスティーヴン・ダルドリー。イギリス生れで、あのヒット作「リトル・ダンサー」(Billy Elliot・2000・英/仏)を撮った人。その後アート系小劇場で公開された「めぐりあう時間たち」(The Hours・2002・米/英)や「愛を読む人」(The Reader・2008・米/独)を撮っている。本作もその流れか。確かにちょっと悲しい系の作品が多いが……いずれもIMDbで7.5点以上の高評価。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、金曜に確保しておいて30分前くらいについたら、ロビーは大混雑。12〜13分前に開場になって場内へ。観客層は、下は小学生くらいから中高年までいたが、子供向けの話ではない。20代くらいの若い人が目立つ。やはりボクのように親がファンタジーだと思ったのか。男女比は3対7くらいで女性の方が多かった。最終的には287席に8割くらいの入り。

 ほぼ暗で始まった予告で気になったのは……上下マスク、トム・ハンクスとジュリア・ロバーツの人生やり直し映画「幸せの教室」。大卒じゃなくてリストラされた男が、大学に入ってやる気を失った女性講師から講義を受ける……アメリカらしい前向きな映画らしい。5/11公開。

 スクリーンが左右に広がってシネイコ・サイズになってから、コミック原作のまさかの実写映画化「るろうに剣心」。主演は平成仮面ライダーの佐藤健。NHKの「龍馬伝」で岡田以蔵を演じたイケメン。ロッテFiTsのCMでくにゃくにゃダンスを踊っていた。ほかに武井咲、吉川晃司、蒼井優、江口洋介、香川照之ら。これだけ人気作品を映画化すると、キャストからして賛否両論大変だろう。8/25公開。

 バットマン最新作「ダークナイトライジング」は、さすがクリストファー・ノーラン監督、スケールの大きなドラマチックな映像。何かを予感させる。7/28公開。

 前作は酷かったが「タイタンの逆襲」はどうだろう。また3D上映か。ただ予告の映像は面白そうだった。4/21公開。


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