2002年9月7日(土)「インソムニア」

INSOMNIA・2002・米・1時間59分

日本語字幕:手書き下、栗原とみ子/シネスコ・サイズ(マスク、パナビジョン)/ドルビーデジタル・dts・SDDS
(米R指定)

http://www.insomnia-movie.jp/
(音声付き要注意)

アラスカの小さな田舎町ナイトミュートで猟奇的な殺人事件が発生した。ナイトミュートの警察署長はロス市警の友人、敏腕刑事ドーマー(アル・パチーノ)に捜査協力を依頼する。ドーマーは相棒のハップ(マーティン・ドノバン)とともに白夜のアラスカへやってくるが……。

74点

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 タイトルのインソムニアとは不眠症のことだそうだが、これは不眠症というよりは夜中まで明るい白夜と、精神的なプレッシャーのために一時的に眠られなくなる男の話(これが不眠症ってことか? でも5日くらいの話だからなあ)。細かなパズルのピースを組み合わせていくような話はよくできていると思うが、あまり気分の良い映画ではない。「es[エス](DAS EXPERIMENT・2001・独)」のように不快というか、非常に居心地の悪い映画……。

 物語自体はリメイクだそうで、オリジナルは日本未公開の「Insomnia(1997・ノルウェイ)」。これを見たアメリカのプロデューサーがリメイクを企画し、その脚本を読んだスティーブン・ソダバーグ監督が、「メメント(Memento・2000・米)」のクリストファー・ノーラン監督をワーナーの重役に紹介し、その実力を認めて本作の監督が決まったという。

 オリジナルとの違いは、内務調査という警官の不正を防ぐための組織を登場させ、誤って銃撃してしまうことになる相棒との間に確執を設定したこと。これによって主人公の苦悩はいっそう鮮やかになり、不眠症となることがわかりやすくなっている。しかも利口な容疑者に逆に脅されることになるから、それもより鮮烈となる。

 ただし、これが不快さの原因でもあり、観客は開巻早々から否応なく犯罪の片棒を担いでいるような気分にされてしまう。間違って銃撃したなら、正直にそれを言えばいいものの、不快だった「ノボケイン」と同様に小さな嘘をついたことから、それを隠すためにまた嘘をつき、それが次第にエスカレートしていくという最悪のパターン。アル・パチーノがまたうまいものだから、余計にイライラが募ってしまう。

 しかし、それを別にすればすばらしい映画だと思う。風景も絶品だし。ということは、オリジナルのまま作った方が、イライラを感じさせないでサスペンスを盛り上げることが出来、いい作品になっていたに違いない。ますます、オリジナルが見たくなった。

 さりげない存在感のヒラリー・スワンクがいい。本当にいそうだし、等身大の役だし、告発すべきか迷う姿も説得力がある。いい役をもらったと思う。

 ロビン・ウィリアムズもいい。演技どうこうの前に、設定自体がうまい。彼の明るくて人の良いイメージをそのまま利用して、こういう役に抜擢するとは。もちろん演技がうまいから。ちゃんと成立しているのだが。

 アル・パチーノはだいたいイメージが暗いから、不眠症を演じるのにこんなにふさわしい人はいないだろう。しかし、それを逆手にとっているのか、いつもよりは明るくきびきびとした感じで、なんだかいい。暗い話を暗く演じるより、この方が効果あると思う。アル・パチーノ自信の演技プランなのか、ノーラン監督の指示なのか。

 おもしろかったのは、LAの刑事がアラスカ警察(ナイトミュートという架空の町の市警)の官給銃を見て言うセリフ。「軽いな。銃身と撃針以外はみんなプラスチックか」と、いまやほとんど全米で使用されているグロックを手にして言うシーン。スワンクが「LAじゃ、何を使っているの?」と聞くと、「S&Wの.45だ」と答える。つまりLAではそれだけ凶悪な犯罪が多いとほのめかしているのだろう。ただ、おそらくS&WのM4505と思われるその銃は、8発+1しか弾が入らない。一方、グロックは標準型なら9mmとやや口径が小さいものの、17発+1も入るのだから、はたしてどっちが凶悪犯罪向きだろうか。

 バック・アップ用拳銃にワルサーPPK/Sを使うとか、ちゃんと薬莢が落ちていたりとかはリアルなのだが(全長が長い気はしたが)、ショルダー・ホルスターを使っているのはどうなのだろう。最近の米警察系ではショルダー・ホルスターは事故が多いために使用が縮小されているのだ。FBIなどでは使用禁止になっているほどだ。LAほど凶悪犯罪の多い大都会の刑事がショルダー・ホルスターを使っているだろうか。ちょっと疑問。

 ラストのショットガンは、大音響とともに大穴が開き、大迫力。この銃撃戦はなかなか怖い。

 アル・パチーノの最後のセリフ「道を見失うな」が心に残る。


 公開初日45分前で5人の人。40分前くらいから増え始め、35分前に開場し、最終的に指定席なしの400席の6〜6.5割が埋まった。20代が中心で、5.5対4.5でやや女性の方が多い。老若比は3対7で倍ほども若い人たちが多かった。

 それでも、翌日には劇場が「バイハザ」と入れ替えられ、305席になってしまったが。

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